いつの頃からか仕事が終わるととにかく一杯飲むという生活がすっかり当り前になっ
てしまった。酔ってみたいのではなく、お酒があるくつろいだ雰囲気がいい。そんな
とき「マテイーニ」があったら最高。
ジンに、ほんの少しのドライ・ベルモットを加えるだけなのに、作り方には沢山の
意見がある。 ある人は、グラスいっぱいの氷にベルモットを入れ、それを全部捨てて
から、ジンでを満たさなければ、という。シェークするのを好む人。シェークしない
でステイアだけの人。添えるものとしてオリーブという人もいるし、レモン・ツイス
トを主張する人もいる。
いずれにしろ、ジンとベルモットだけで、こんなにおいしい飲み物ができあがるの
だから本当に不思議。
多くの人が同じ気持ちを持っているのか、静物画やグラフィック・アートに描かれ
たり、小説の中で使われたりしている。ハリウッドでも、ボンド映画はいうに及ばず、
「花嫁の父」「麗しのサブリナ」それに「7年目の浮気」などに出てきた。オード
リー・ヘプバーンは「「昼下がりの情事」の撮影の合間にパリで飲んだマテイーニは
世界一だったわ。辛口で凍らない程度に冷えていて」と言ったことがある。それから
モダン・ジャズのアルトサックス奏者ポール・デスモンドも「マテイーニのような音
を出したい」そう。
マテイーニを飲むと、一杯で調子が出てきて浮世のことは忘れる。二杯でもうふら
ふら、三杯でロレツがまわらなくなる。
わたしは毎晩、マテイーニを飲みながら自分の"夢"に想いを巡らせてきた。きっと、
これからも同じだと思う。