"Less is more."

  

 
   ドイツの建築家ミース・ファン・デル・ローエが1926年にベルリンで発表したMRチェアーは、今でもフォルムの美しさで見るものの目を奪う。
 1本のステイール管を曲げて一体化して、革か籐の座卓を乗せただけのシンプルな構造。
 "Less is more."とミース・ファン・デル・ローエは言った。想えば、もののデザインで‘シンプル’ほどむずかしいことはない。しかし、成功すれば、何十年も、いや、何世紀もの試練に耐えられる。ミース・ファン・デル・ローエの椅子をはじめ、イサムノグチの照明器具、もっと古くは日本の障子、畳は、単純さゆえに見るものを感動させ、時代を超越した力を発揮する。
 シンプルなライフスタイル、シンプルな考え、シンプルな行動も、何にも増して説得力が強い。どんなに優れたものでも、それが、そのときに置かれた時代を映していなければ、人々はその存在を忘れてしまう。その時代に合って、そのときの人々の要求にマッチすることは容易なことではない。 言うまでもなく、すべてにバランスが保たれていなければ良いものにはならない。サイズ、重さ、質感なども重要なファクターだ。その全てに合格し、ものとしてバランスしたとき、真のデザインが生まれる。 "Less is more."を彷佛とさせる物に接することは、それほど多くは起こらない。それに出会ったときは素直に喜ぼうではないか?
 (註)"Less is more."は、装飾をつけなければ、つけないほど、そのものの本質が現れ、より豊かな表現となる、というミース・ファン・デル・ローエの言葉。デザイナーの中には、これに反発する人もいて、物議をかもした。しかし、単純なものほど訴える力が強いという解釈は、世界中で広く知られ るようになった。        

  

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