シンプルでクラシックな美しさ。オ−ドリ−・ヘプバ−ンの存在によって少なくとも2人の音楽家がインスピレーションを感じて、美しい音楽が誕生した。
ひとつは、あの「ムーン・リヴァー」。
オードリーがニューヨークの赤レンガのアパートの階段でギターを弾きながら唄った。この曲を作ったのはヘンリー・マンシーニ。彼の回想によると、「顔にしろ性格にしろ、一人の人間から作曲家がインスピレーションを受けるのは珍しい。しかし、わたしはオードリーからインスピレーションを得た。初めてオードリーに会ったとき、彼女の声の質を知り、彼女が美しく唄うこの旋律がはっきり私の耳に響いた」(イアン・ウッドワード著 坂口玲子訳 「オードリーの愛と真実」)
「ムーン・リヴァー」は、映画「ティファニーで朝食を」のワン・シーン。テキサス生まれのヒロインのホリーが、夢を抱いた田舎娘にすぎないことを説明するために書かれたものだった。この曲は世界的なヒットになったが、オードリーが唄っているオリジナルが一番いい。
もう一つは1955年に録音されたモダンジャズの一曲。
当時、最も人気のあったグループの一つだったデイヴ・ブルーベック・カルテットが、「オードリー・ヘプバーンが森の中を歩いて来る感じで」と楽器に向かう。
ブルーベックの短いピアノのイントロに続いてアルト・サックスのポール・デスモンドが続く。これはBrubeck Time というLPの最初に入っている。曲の名前は「オードリー」。この3分30秒の小曲はオードリーの「シンプルでクラシック、そしてメロディアス」さを表現して余りある。こんなに華麗で繊細な音は聴いたことがない。