ML320の快適な旅

  

エキサイティングの先にある安定感 

 SUV(スポーツ・ユーティリティ・ヴィ−クル)は、人の冒険心をくすぐる。「冒険」のほかに「週末」「休暇」「遊び」というキーワードが似合う。
MLタイプの第1印象:顔つきがSLK そっくり。ワンタッチでクーペがロードスターに早変わりするのがSLKなら、安定と冒険の二つが同居しているのがMLということになる。そこには、オン・ロードの快適性+オフ・ロードの野性味がある。「シートが飛行機の座席みたいで、外観からは想像できない乗り心地!」と言った人がいた。雪深い山道、岩盤の突き出た山岳、海辺の砂浜を走れるし、通勤の足にも、スーパーの買い物にも、恋人とのデートにも使える。ミラノのスカラ座の前でもワイキキの砂浜でも同じように映る。ビジネス・スーツ、あるいはブラック・タイから水着やタンクトップまで乗る人の服装を選ばない。
 同じ車が「アメリカン・ビューティ」に登場する。今年のアカデミー賞で話題をさらった映画だ。ちょうど、これが企画されていた1997年5月、MLタイプはアメリカのアラバマ州のタスカルーサ工場でデビューした。ヨーロッパ以外で生産される最初のメルセデスだった。映画の主人公の奥さんは、郊外の住宅地に住むアメリカの中流夫人で、不動産ブローカーを営み、成功こそが人生の“美”であることを信じて疑わない。この車は、彼女の足だけでなく、家族の足としても使われる。
 ある統計によると、SUVを持っている人がオフ・ロードで使う比率はわずか5%、ほとんどの人はオン・ロードで使っている。 ダイムラー・クライスラー社の予測では、アメリカのSUVの販売台数は1995年から2006年までに35%増えるという。つまり、個性的なライフスタイルを持ち、人生を積極的に楽しもうという人のためのトレンドセッターなのだ。
 日本に輸入されているMLタイプは3つ:直列5気筒デイーゼル・ターボ・エンジン付き270CDI、S タイプなどと同じV6ガソリンエンジン付き320、それにV8の430。スペアタイアを背負って全長4.9メートル、全幅1.83メートル、全高1.82メートルで、重量は2トンを超える巨体である。
 乗り込んだ途端、目につくのはメルセデスで見慣れたメーター・レイアウトやコントロール・パネルで、その仕上がりからシートの材質までメルセデスでなくて何だろう。変速レバーも左右に動かすだけでギアを選べる最新のティップ・シフトである。普通のメルセデスにはなくてMLタイプにあるものは、助手席の奥にある12V15アンペアの電源コンセントとコントロール・パネルにある積雪やぬかるみなどオフ・ロード走行で使うロー・レンジ・スイッチの2つだけ。ほかは、ほとんど、標準メルセデス仕様だ。
 走り出してみると、もっともっとメルセデスが感じられる。ハンドリングは期待以上にしなやかで軽く、小回りが利く。トラック並みの高い座席に座ると、ずっと先まで見通しが利く。バックミラーに写るうしろの車は屋根しか見えない。
 全モデルともディファレンシャル・ロックの代わりに4ムETS(4輪エレクトロニック・トラクション・システム)を備え、路面のホイールの動きをセンサーで監視してスリップを防ぎ、ESP(エレクトロニック・スタビリティ・プログラム)で横滑りを修正する。
 広いゆったりした室内でメルセデス感覚を楽しみながら、私はしばし、こんな感慨にふけった。「メルセデスって、誰のわがままでも聞いてくれるような車を作っている」。


・メルセデス・ベンツML320。全国希望小売価格:555万円(税別)
3199cc V6エンジン(218馬力)。
四輪駆動。5速A/T変速機。
10・15モード燃料消費率:7.3km/リッター。                               

(日本ダイナースクラブ「シグネチャー」2000年9月号)

  

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