CLK320カブリオレの快適な旅

  

フレンドリーな「おてんば娘」

 CLK という名前はFIグランプリでの活躍を想い出させる。これを受け継いだかのように、CLK320カブリオレは、限りなくワイルドで、その上、優しい。
 ここへ来て外見が変わってきたメルセデスの中でも、CLKの外観はフレンドリー。3サイズは4565ー1720ー1380(全長ー全幅ー全高、単位:ミリ)と一回り小さい。 Lはリヒト(軽い)、Kはクルツ(短い)で、この小ぶりさが、運転をとても気軽で、かつ気持ちの良いものにしている。
 止まっているときには、ひっそりとしたシックな風情なのに、走り出すと、彼女は‘おてんば娘’に早変わりする。シェークスピアの“じゃじゃ馬ならし”の気分で乗ってください。アクセルを踏めば踏むほど、こちらの運転技量をチェックしてくる。急がずにゆっくりと走ることもできれば、猛スピードでも走れる。それもそのはず、エンジンはSクラス、Eクラス、SLなどと共通の3.2リッターV6なのだから。
   ‘走り’では申し分ないCLK320カブリオレが、その持ち味を最も発揮するのは、何といってもエア・モータリング。電動のソフトトップを開けて、風を感じながら走る解放感、その快適さは例えようがない。SLやSLKもオープンになるが、二人しか乗れない。CLKは4人でゆったり旅をすることができる。ワイワイガヤガヤと愉しむのがいい。
   オープンのときでも、クライメートコントロールを好みの温度にセットすると、暑さも寒さも感じない。彎曲した両側の窓が壁になっていて、車のまわりの空気の流れが室内の空気を閉じ込める役をするので、調節された室内の空気は逃げて行かない。
 自動車が望み得る”走る、曲がる、止まる”は、当たり前で、その先のコンビニエンスが嬉しい。
 シートの断面の形をしたスイッチで好みのシート・ポジションが得られるメルセデス独特のパワーシートはよく知られている。同時に、その周りにある‘仕掛け’が人をなごませる。
 その一つ: 後のシートに乗り込もうと前席の背もたれを倒すと、前席が自動的に前へ移動して足元を広げる。背もたれを戻すと元の位置に戻る。二つ目:センターコンソールに隠されたカップホルダーはポタンを押すと姿を現わす。せり上がったり回転するその動きは“ロポットみたい“でユーモラス。この何でもないように見えるカップホルダーは油圧で動く。
「これが一番好き!」と言った人がいた。
 しかし、CLK320カブリオレは、何でもあることにも、ちゃんと対応している。万が一の衝突や横転のときには、フロントとサイドのエアバッグや瞬時に飛び出すロールバーが乗員を保護する。もちろん、ナビゲーションも付けられる。
 さて、新しいといっても、伝統も残している。
 ラジュエーターそのものから発展した戦前からの”お面”もそうだ。鼻先についているメルセデスのマーク(スリーポインテッドスター)はCLKにも付いている。
 スリーポインテッドスターの目に入る大きさと位置は、時代とともに変わって来た。その昔、スリーポインテッドスターは、大げさに言えば、中空に浮かんでいた。それが時代が経つにつれて、少しずつ小さくなり、低い位置に移ってきた。CLKのそれは、もっと低い。
 メルセデスは時代を写している。世界で一番古い自動車メーカーが、一番新しい車を作っている。それは、伝統と経験と技術があるからできる。

・メルセデス・ベンツCLK320カブリオレ。全国希望小売価格:750万円。
3199cc V6エンジン(218馬力)。
5速A/T。
10・15モード燃料消費率:8.4km/リッター。                               

(日本ダイナースクラブ「シグネチャー」1999年9月号)

  

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