SLKエッセイ(2)

  

SLKは新生メルセデス

 
  SLK は新生メルセデスである。クルマへの概念を考え直させたAクラスのように、バリオルーフの採用で2シーター・ロードスターに革命的変化をもたらした。
 1993年、メルセデスの乗用車販売台数が前年実績を下回ったとき、当時のヘルムート・ヴェルナー社長は、こう語った。「かってのベンツのお客さまというのは、ベンツができる限りよい品質を保っていれば、それに見合っただけのお金を出してくれました。しかし、現在の自動車市場では確実にインデイビジュアル・モビリテイ(個性的な移動)への気運が高まっています。こうした人たちは、ある程度の価格までは受け入れますが、それ以上は払わない。そういう要望が強くでてきたのです。私たちが競争する対象は、そうしたお客さまの要求であり、BMWでもトヨタでもありません。お客さまが抱く『こういうメルセデスが欲しい』という要望こそが、私たちにとっての競争相手になってきたわけです」
(TBSブリタニカ 「メルセデス・ベンツに乗るということ」)
 こうして、SLK は生まれてきた。
 では、「冒険的要素と高安全水準を備えた純ロードスター」と銘打たれたSLK は、どう変わったのか?
 「オープンカーとクローズドクーペを‘瞬間的’に選べるメルセデス」を実現すると同時に価格も下げたことだ。
 運転席に座ってみると、これまでのメルセデスにあったものーーウインカー・レバー、ライト・スイッチ、室内温度コントロール、そして、ジグザクに動くトランスミッションなどーー全てが、あるべき場所にある。「ああメルセデスだな」と感じる。しかし、同時にどこか違う。
 これまでのメルセデスのフィーリングを仮に‘重厚’だったと表現すると、SLK のそれは‘軽快’というべきだろう? サスペンションも、これまでの道路ショックを吸収する「ふんわか」な感じから道路の凸凹がよりみじかに伝わってくる「ごつごつ」した乗り心地になった。SLの乗用車的な乗り心地と対照的なスポーツカー的な乗り心地。音もなく加速するSLに比べて、SLKはエギゾーストノートを響かせる。
 先日、SL 600にゆっくりと乗ってみて、その伝統的快適性を改めて確認した。ソフトトップを開けて走ったが、そのステアリングを通して伝わってくる感触やアクセルを踏み込んだときの反応には圧倒させられた。シート位置の調整機能も豪華な内装もすべて納得、まさにメルセデスなんだ、と思った。でも、SLKにはバリオルーフがある。            
 (97/7/1)

  

INDEX