SLKエッセイ(3)

  

「なんてってもSLK」

 
 ぼくが、メルセデスSLK 230コンプレッサーを手に入れてから1年近くになるが、この小さな2シーターは、少しもぼくの期待を裏切らないで走り続けている。
 SLKは、メルセデス・ベンツ社の「ユーザー・オリエンテッド」変身の結果、高嶺の花がぼくの方に近づいてきたのだった。スタイル、価格、コンセプトを含むもの全てが、よりぼくの好みに合うものになった。走行距離は、5、500キロを越えたところだが、エンジンの掛かり方も回転の上がり方も1年前と全く変りはない。燃費はリッター6.5ー7.0キロである。具合の悪いところや故障は一度もない。
 SLKは「冒険的要素と高安全水準を備えた純ロードスター」と言うことだが、‘冒険的要素’って何だろう?
 それは、何といってもボタンを押すだけでクーペがオープンに早変わりするバリオルーフだ。クーペからオープンへ、またオープンからクーペへ30秒たらずで変化するこの機能。これこそは、冒険的要素と呼ぶにふさわしい。SLK を1台持つことは、オープンモデルとクーペモデルを2台持っているのに等しい。
 確かに世の中にはオープンモデルは存在する。総合的には、SLKより優れたものもいくつかあるだろう。しかし、SLKのようにバリオルーフを備えているものは存在しない。
 人の欲望は複雑で予想しがたい。同じ天気の良い風のない日でも、一緒に乗る人、あるいは、そのときの気分や行く先によって、オープンを選ぶときもクーペを選ぶときもあり得るのだ。それを、ほとんど時間や手間をかけないで、ボタンひとつで解決してしまう。
 そんなわけで、ぼくは、運転中にルーフを開けたり閉めたりするのが日課になってしまった。
 信号待ちのときに開閉する。30秒の勝負なのだけど、このときの間に合うかどうかというスリルがたまらない。バリオルーフは、車が走り出すと動作しない。間に合わないときは、どうするか? 後の車に謝るわけなのだが、これまでに謝ったことは2度、2度とも、後の車は、静かに何も言わないで、ルーフが収まるまで待っていてくれた。この間は信号待ちでルーフを開けたら、後についていたジープの若いカップルが拍手をしてくれた。
 ある日のこと、車に乗ろうとしているぼくに、自宅の近くに住むSLのオーナー氏が散歩の途中で話しかけてきた。「屋根の開閉が簡単にできるからSLKはいいんですよ。私のSLは屋根を外すのが大変なのでオープンエアで走ったことは、ほとんでないんです」そう言えば、街で出会うSLは、ほとんどがルーフをつけているような気がする。               
 (98/1/15)

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