SLKエッセイ(4)

  

SLKはメルセデスらしくないか?

 
  SLKはメルセデスらしさがなくなったのだろうか?
 メルセデスは高品質と高価格で知られていた。車づくりは、モAll or nothingモ (最善か無か)でやっていたが、時代の流れがメルセデスをして「顧客の要求に合う車を提供すること」を強いた。新車開発における優先順位を技術と品質偏重から時間とコストをも含めた市場重視へ変換した。メルセデス・ラインは、「スモール・シテイ・カー」「マルチ・パーパス・ビークル」「オール・アクテイブ・ビークル」「冒険的要素と高安全水準を備えた純ロードスター」の四分野が加わることになった。また、需要とコストに対応するため、ドイツ以外にも工場を持つというこれまでにない生産方式をも選んだ。
 新しいバリエーションの価格は、大幅に下がった。品質をこれまで通りのままでコストを下げるという努力は並大抵のものでなかったことは、充分想像できる。ボデイの鉄板の厚さから内装に至るまで検討されたことだろう。
 で、新しいメルセデスはどことなく違う。全体の造りが違う。ボデイは昔のようではなく、ドアの閉まる音の響きまで違う。SLKのレザー張りシートの直接見えない部分は、レザーを節約している。SLK の室内は狭い。それにトランク・ルームは小さい。特にヘッド・ルーム、天井が低い。それに、シートのまわりには何も置けない。小物入れは、いくつかあるが、ブリーフケースひとつ置くスペースさえもない。これまでのメルセデスと比べてみると、よく分かるのだが、天井の高さや身の回りもトランクもすべてにユッタリがメルセデスの特長のひとつだった。SLKは、そうは行かない。
 しかし、 SLKはフレンドリーな魅力に満ちている。
 これまでのメルセデスは、一番小さい190モデルでさえも、面構えからしてあまりに堂々としていて親しみを感じさせないデザインだった。SLKは、メルセデスの歴史上で始めて、人々から親しまれる姿になった。「このスタイルや大きさがメルセデスらしくなくていい」と友人たちは言う。道端で歩いている人からそう話しかけられたこともある。大きさとデザインから来る「可愛さ」がある。 
 ぼくは、車やモノに対して擬人性を求めている。これは自分勝手に擬人化しているにすぎないのだけれど、モノにも人間のように感情や性質があり、それらがこちらにはたらきかけてくると思っている。車にだってそれは言える。
 SLKが変わったのは時代の流れなのだ。               
(98/6/1)

  

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