SLKエッセイ(5)

  

「SLKは‘走る茶室’」

   「99年モデルのSLKが来ていますが、乗って見ますか?」とメルセデス・ジャパ ンから電話をもらって、ぼくは一も二もなく飛びついた。1年半前にSLKを手に入れ てから、約1万キロ、この車の魅力に振り回されっぱなしのぼくにとって、ニューモ デルは、もっと別のものを与えてくれるかも、という期待で。
  車を受け取りに行くと、「スペックは違わないんですが」と見覚えのあるキーを 渡された。車は赤で、それもフラッシイなメルセデスが呼ぶところのインペリアル・ レッドである。ぼくのエメラルド・ブラックと対照的で右ハンドル。内装も赤と黒の ツートーン、50年代のアメリカ車さながらである。
 左ハンドルのSLKに乗っているので、右腕で操作するトランスミッション・レバー は、最初ちょっとぎこちなかったが、数分のうちに体の一部になってしまう。
 メルセデスのことだから、最初から完成したものを出したに違いない、と思いなが ら、1万キロの経験を踏まえて、ここでデザインもスペックも変わらないSLKをもう 一度見直して見るチャンス。そこで3日間、この車を箱根、軽井沢など800キロの ドライブへ連れ出してみた。折りから、日本近海には台風4号が停滞していて快晴と いうわけには行かなかったが、ドライブの大半は屋根を開けてエアー・モータリング を楽しんだ。


 ぼくの印象は、前のモデルに比べて、もっと洗練されて普通のクルマに近づいた、 ということだろうか?加速もブレーキもほとんど変わっていないのだが、ステアリン グが少し柔らかくなってアクセルの踏み心地が軽くなった。どこがどう変わったのか を専門家に聞いてみたいが、前のモデルは、もっと荒削りで運転者の操作に敏感に反 応する。個人的には、そのほうが好きだ。その意味では、「いつもファースト・モデ ルが一番」--逆も真なりだが--という大原則に当てはまる。しかし、そうだから といって、SLKの大きな魅力は少しも損なわれてはいない。


 同乗したのは、これまでSLKの存在すら意識しなかったという女子学生のAさん。
彼女のフレッシュな感想を紹介しよう。
-SLKをひとことで表現すると?
「台風の目に乗っている様な空間」「走る茶室(非日常的という意味で)」
-SLKで一番気に入ったことは?
「思い立ったらすぐに屋根が開けられること」
-気に入らないことは?
「クーペにした時、天井が低いこと・・かな? 」


 「台風の目に乗っている様な空間」「走る茶室(非日常的という意味で)」とは、SL Kを言い得ている。フロント・シールド、サイド・ウインドウ、それに風の巻き込み を防ぐ透明のリアー・パネルに囲まれたスペース(長さ1m x 幅1.4m x 高さ1m)の“ 茶室”は、乗っている人を非日常的な世界に誘うのだ。それも、わずか30秒という 素早さで。
 屋根を開けて走り出すと、頭の上に目に見えない空気のカベが出来る。その外側で は、スピードを上げるに従い、急激な空気のタービュランスが起こっている。これは 正に台風の目。


 “夢見る乙女”の感想から今度は現実的な感想を。
 外資系証券会社のアナリストOさん。企業の分析でなく、車の分析をやってもらっ た。彼の運転歴は15年で、今は国産の4WDを足に使っている。
 彼のレポート: 「このクルマを選ぶ理由の99%は完璧なコンバーティブルとい う点だろう。幌とちがってトップを閉めれば完全なハードトップ。しかも開閉は全自 動で、中にいながらでもかっこいいが、これをクルマの外から見るともっといい。す ごく複雑な動きをしながら、見事に開閉する。回りの人が注目するのが、恥ずかしい ようなうれしいような。
 これは魅力的なクルマだ。ラゲッジスペースをもっと大きくとか、4シーターの方 が便利だとか言って、つまらないクルマにしなかったところがエライ!削るものは全 部削って、遊び心だけを標準装備にしました、という設計ポリシーが泣かせる。
 東京でクルマは必需品ではない。まして2シーターのコンバーティブルをセカンド カーとして持つのは贅沢以外の何物でもないだろう。でも、どうせ一度の人生なら、 SLKのような個性豊かなクルマとつきあうのもおもしろいんじゃないか」

ドライブ・メモ
9/1(火)  東名ー厚木道路ー真鶴ー熱海ー湯河原ー箱根ー御殿場ー東名
くもり   319km/36リッター = 8.9km/l
9/2(水)  関越ー上関越ー上田ー軽井沢ー上関越ー関越
くもり   470km/44リッター =  10. 7km/l  

(98/09/20)

  

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